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生成AIは異文化圏の人

  • 執筆者の写真: tomohisa kumagai
    tomohisa kumagai
  • 1 日前
  • 読了時間: 5分

更新日:15 時間前

くま力学研究所は今月(令和8年の7月)から8期目に入りました。  昨年のブログでCursorというAIコードジェネレータの話を書いてから、もう1年ほど経ちました。あれから生成AIはさらに進化していて、最近弊社では「Claude Code」というツールを使い、複数のAIエージェントにチームを組ませて仕事を進める、ということをやっています。

 試しに、ベイジアンネットワーク(因果関係を確率で扱う手法です)で解析するGUI付きのツールを作らせてみたのですが、1週間程度であっさり形になり、新しい武器を手に入れたと思いました。

内製 Bayesian Network Tool
内製 Bayesian Network Tool

 ただ、それよりも面白かったのは、その過程で思いがけず昔の記憶が呼び覚まされたことです。


メールの宛先問題

 以前ドイツの会社で働いていたとき、日本人とドイツ人が混ざったチームで、仕事の進め方の違いがよく表面化していました。象徴的だったのが、仕事のメールの送り方です。


 日本人は、関係者全員をCCに入れて情報を共有します。プロジェクト全体の状況をみんなが把握していれば、それぞれが自分の持ち場や拾うべきボールを自分で見つけられる、という発想です。実際、現場ではその場の空気で自然と役割分担が決まっていくことが多い。

 一方ドイツ人のメンバーは、PM(プロジェクトマネージャー)が全体の情報を咀嚼した上で、各メンバーに「あなたが今必要な情報」だけを個別に抜き出して送ります。指示系統と役割分担がはっきりしたトップダウン型の組織で、担当者は自分の持ち場の情報さえ受け取れればよく、逆に無関係な情報が大量に流れてくることは「なぜ自分に送られてきたのか」と混乱の元になる。


「全体を眺めて各自が持ち場を見つける」日本型と、「役割を切り分けて必要な情報だけ流す」ドイツ型は、組織としての情報の流し方の設計思想がそもそも違う、ということなのだと思います。


AIはズレる。まるで異文化圏の人。

 AIも意外に人間ぽくて,ちょっと質問しただけのつもりが、いつの間にか本人(?)判断でファイルを編集し始めていた、というのはよくある話です。つまり、こちらの意図を勝手に察しようとしてくるわけです。問題は、「パソコンのファイル操作が超絶速くて達人クラス、しかしその方向性がだいたいズレている」こと。


 このズレ方が、なんというか、異文化圏の人っぽいんですよね。誤解のないように言っておくと、外国人を下げているつもりは全くありません。日本人は子供の頃から「空気を読む」ことを重要視し、ノンバーバルな意思疎通能力をずっと鍛え続けています。もはや忍者レベルです。(手裏剣は投げないけど、空気を察知するスキルにおいて。)そしてそれは、これまで海外からあまり人が入ってこなかった、比較的閉じたコミュニティだからこそ、精緻に成立してきたのだと思います。


 AIに細かい指示を出さなかったときの体験は、「気が利かない」ではなく、「気を利かせようと親切にしてくれたのに、ズレている異文化の人」に近い。悪気は全くなく、むしろ善意でやってくれている感すら漂う。ただ、こちらが前提にしている暗黙の文脈を、まだ持ち合わせていないだけなのです。だから、AIに対しては察してもらうことに期待せず、最初から言葉で明示するように、ということで「プロンプトエンジニアリング」なる言葉も登場している昨今。


情報を全部見る、という前提の脆さ

 もう一つ、別の問題もありました。今度は、ちゃんと言葉で明示していても起きる問題です。


 日本の会社で働いていた時代に、CCで送られてきたメールの添付ファイルをちゃんと開いて読んでいなかったことで、大事な日程を把握しておらず、咎められたことがあります。CCで送られたメールの中まで、全部頭に入れる人、あんまり多くない気がしますが…

 情報発信側が楽をしている分、受信側に負担がかかるのが日本式です。


 これ、AIエージェントに当てはめても、よく似た現象が起きます。やり取りの文脈(コンテクスト)が長くなればなるほど、AIの挙動はだんだんズレてきます。ChatGPTやGeminiを使って、最初はスムーズにやり取りできるのに、会話が長くなるにつれて反応が遅くなり、最後はびっくりするくらい話のポイントがズレていく、という経験をした方は少なくないのではないでしょうか。


「共有さえしておけば、必要なタイミングで必要な情報を思い出して」という前提は、人間相手でもAI相手でも、難しいのです。


 だとすれば、情報もコンテクストもなるべく短く保つべきだ、という話になります。そして、それを実現する自然な発想が、一つの巨大な会話に全部を詰め込むのではなく、役割ごとに複数のAIエージェント(サブエージェント)へ仕事を切り分けて任せる、というやり方でした。マネージャー役には全体の方針だけ、プログラマーには実装に必要な仕様だけ。


ドイツ式の生成AIチーム

こうして、私は生成AIチームを作りながら、ドイツのスタイルを強く意識するようになりました。プロセスは言葉で定義して、読ませる行間を排除すること。情報はメンバーに必要なものを必要な時に渡すこと。そのためにマネージャーは,情報の整理と出し入れに長けていること。


 私がドイツの会社で苦労した理由の一つは、「情報を流す立場に立ち、誰にどの情報を流すべきか」を考える訓練がされていなかったことにあると思います。(その代わりに空気を読むスキルは忍者レベルですが..)

 あの苦労が、今のAIチームのプロセス設計で、多少なりとも生きている気がしています。


 AIを使っていて意外に面白いのは、こういった組織運営について、ロボット相手に色々実験できることでもあります。


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